ネットのライターのアルバイトをやってみたら「駄目な文章の例」として晒し上げられた話

僕が大学生の頃の話です。

当時僕は就活を間近に控えていながら、まったくと言っていいほど目立った実績がありませんでした。

周りの友人はサークルのリーダーとして長年チームを引っ張っていたり、塾講師として生徒を何人も有名大学に送り込んでいたりと、就活における強力な武器を引っ提げていました。

こんな状況に加え、テレビでは連日就職氷河期だなんだと不安を煽るような報道を続けていたので、僕の焦りは増すばかりでした。

このまま就活に突入すれば惨敗は必至と悟った僕は、就活が始めるまでのわずかな時間で何か目立つ実績を作らなければならないと思っていました。

サイト検索で、ネットのライターの仕事を見つける

ネットサーフィンをしていたある日、とあるサイトで「文章を書いてお金を稼ぐ」という仕事を発見しました。今でこそ「クラウドワークス」や「ランサーズ」などの大手サイトで素人が文章を書いてお金を稼げる仕組みがありますが、この当時はそこまで有名でもなく、さらに僕が見付けたサイトは明らかに個人でやっているような小さなサイトでした。

僕はこのサイトを見付けた瞬間、このバイトに応募して「作家のアルバイトをしていました」という実績にしよう! と思い至りました。単なるコンビニや飲食店のアルバイトでは周りと差がつきませんが、文章を書くアルバイトをしていたら珍しがられるだろうと踏んだのです。加えて僕は読書が大好きだったので、文章を書くことについては少しだけ自信があったのです。少ない期間でインパクトのある経験を語るなら、これしかないと思いました。

今思えば個人でライターの募集をしているサイトなんて、怪しさ満載でしたが、まだ社会経験もなく、就活目前で追い詰められていた僕には警戒心よりも焦りが勝ってしまったのです。

サイトの主に自己紹介文を送り、褒められて舞い上がる(バカ)

早速登録をしようとサイト内の説明を読むと、どうやら指定のアドレスまでメールで自己紹介文を送ることで登録となるようでした。僕はすぐに簡単な自己紹介文とタッチタイピングができますよ、というささやかなアピールの文章を添えて送信しました。

するとものの数十分後に「簡潔で分かりやすい紹介文をありがとうございます」という返信が来ました。単純な僕は「褒められた」とすっかり舞い上がり、このメールが自動返信である可能性も頭に浮かびませんでした。

仕事を開始する

自己紹介を送ったことで、仕事が選べるようになりました。

説明を聞くと、多数ある文章の仕事から自分が書きたいテーマが選べるようでした。

例えば「あなたのダイエットの体験談を5,000文字以上で書いてください。ただし、結論としてダイエットが成功したのか失敗したのか(どちらの体験談でも構いません)を

述べた上で、その主たる原因を明記してください。なお、その文章には『ダイエット』という単語を最低10回以上登場させてください」といったものです。

※この依頼文は架空のものです

他には「カニのお店に関する紹介文」や「カブトムシの育て方に関する文章」など、多岐に渡るテーマがありました。なお、それぞれの仕事には期限と報酬も明記されていました。

僕は早速テーマを選んで文章を書き始めました。

始めて文章を納品する

僕は引き受けた文章の仕事を期日よりもかなり早目に終わらせ、サイトの主に添付メールで送付しました。その後、何度か修正の指示を受けましたが、無事「完成品」として文章を納品することができました。

サイトの主と文章の修正の指示を受けるやり取りをしていた時は、まるで自分が本当に作家になって編集者と仕事をしているような気分で高揚していたことを覚えています。

そして最終的に文章のOKが出て報酬がもらえることが確定した時は、まるでプロの作家が一冊の本を上梓したかのような達成感がありました。

果たして報酬は無事振り込まれたのか

文章のOKが出て達成感を得たのもつかの間、段々と不安が胸に押し寄せてきました。僕の仕事相手はただメールでやり取りしているだけの、顔も名前も知らない人間です。このまま音信不通になって、文章だけ持ち逃げされたとしても、当時の僕には追いかける手段はありませんでした。

しかし僕の心配をよそに、報酬は期日通りに指定の口座に振り込まれていました。その報酬を記帳した通帳は、僕にとって宝物になっています。ちなみに報酬からは振り込み手数料がちゃっかり引かれていて、学生ながら世の中の厳しさの一端を感じたものです。

なお、どれくらいの文字数を書けばいくらの報酬をもらえたかと言いますと、僕が受けた最初の仕事は10,000文字で3,500円ぐらいだったと記憶しています。つまりおよそ3文字1円です。どのテーマの文章も、大体これくらいの報酬だったと思います。

当時僕はこの報酬が高いのか安いのか判断がつきませんでしたが、どうやら素人の文章のアルバイトの中でも最底レベルの報酬だったようです。

ですが、僕の目的はお金よりも就活ネタだったので、あまり報酬額には頓着しませんでした。

サイトに自分の文章をダメだし付きで晒される

僕にとって文章で初めてお金を稼いだ経験を経て、意気揚々と次のテーマを選んで文章を書こうと、再びサイトに訪れた時、僕は「それ」を目にしました。

サイトのトップページに「文章を書く上での注意点」と称されたページのリンクができていたのです。そのページに飛んでみると、「駄目な文章とはどんなものか」という趣旨の説明が、実際の文章を添削する形で掲載されていたのです。

ずいぶん親切なページができたんだなと、そのページに掲載されていた「駄目な文章の例」を読んだ瞬間、僕は凍り付きました。

「これ……俺の文章じゃん……」

そうなのです。そこには、僕が初めて受けた仕事の修正指示を受ける前の文章がそのまま掲載されていたのです。名前などの個人が分かる情報は記載されていませんでしたが、これを見た時の僕の精神的ショックは相当なものでした。当然、文章を書いた張本人である僕に掲載許可を取るような連絡は一切来ていません。

もちろん、報酬をもらっているので、納品した文章をどう使おうと依頼主の自由だとは思います。しかしながら、修正が完了した完成版の文章を個人のブログやどこかのHPに掲載するならともかく、修正中の文章を「駄目な文章の例」として、誰もがアクセスできるサイトのトップページに載せるなんてあまりにも無慈悲ではないかと思いました。

例えこの仕事の規約に「こういった使い方をすることもある」という趣旨の記述がどこかにあったとしても、あくまで個人的な意見ではありますが、まともな事業主なら当人に無断でこのようなことはしないと思います。

結局就活の武器にはなったのか

さて、実は僕はこのショッキングな出来事の後もしばらくこのアルバイトを続けていました。あまり深く考えない性格なのか、鈍いのか分かりませんが、見つけた当初こそショッキングだったものの、よく考えれば誰が書いたか他の人には分からないんだから別にいいんじゃねと思い直したのです。

ところで肝心の「就活で武器になったのか」という点ですが、狙い通り面接官には好評でした。周りがコンビニや飲食店などのよくあるアルバイトの経験談を語る中、僕がライターのアルバイトをしていたと話し始めた瞬間、難しい顔をして下を向いていた面接官が全員顔を上げて驚いた表情で僕を見るという中々に爽快な経験もしました。

結局色々あったものの、僕は良い経験をさせてもらって就活でも役立ったので、このサイトの事業主には感謝しています。

ありがとう!