【書評】「騙し絵の牙」出版人の熱い生き様を描いた骨太の物語! 出版社志望の就活生もぜひとも読むべし!

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別の記事でも書きましたが、僕は本が大好きです。本好きが高じて就職活動の時に出版社を数社受けたりしましたが、その特殊な筆記試験の前に箸にも棒にも掛からずあえなく撃沈したという苦い思い出があります。

そんな思いでもあってか、僕は出版業界に多少なりとも興味があったのですが、この度その出版業界を題材にした小説があると聞いて読んでみました。

「騙し絵の牙」感想を書きたいと思います。

本書の概要について

この本の概要を簡単にまとめると、とある大手出版社の編集長が自分が担当している雑誌を廃刊の危機から救うために奔走するという物語です。

出版不況が叫ばれて久しい昨今ですが、本書の中でもその厳しさが詳細に描かれております。

見どころその① 出版社とコンテンツ業界との繋がりについて知ることができる

人気になった小説や漫画は、映画化、アニメ化、ドラマ化、果てはパチンコになったりもします。当然出版社に努める編集者はそれらの業界の人々と折衝し、「原作」をどのように世間に広めていくのかに心を砕きます。

時には頑なにコンテンツの版権を手放そうとしない作家に対して、カラオケや物まねを披露してまで説得に当たるという他業界ではまず見られないような交渉模様が描かれます。

まさに「編集者」という仕事には、あらゆる面での「人間力」が必要なのだと実感させられます。

見どころその② 電子化の流れが進む出版業界において、「紙」を守ろうとする出版人の熱き戦いを垣間見れる

社会人の方であればお分かりのように、同じ会社に勤めている人間だからといって、誰もが同じ方向を向いて仕事をしている訳ではありません。それは出版社においても同じ。

本作では、売り上げが見込めない雑誌を容赦なく廃刊や電子媒体に移行させて、徹底的にコストカットを図ろうとする経営陣と、紙だからこそ愛読している大事な読者や、新人作家の原稿の発表の場である雑誌を何としてでも守ろうとする編集者(労働者側)の熾烈な戦いの一幕が描かれます。

営利企業の目的とは、「利益を上げること」ですが、出版業界においてはたとえ利益が出なくとも、世の中に訴えたい思いを胸に秘めている作家の叫びを何としてでも届けたいと熱意に燃える編集者が存在しています。

何のために働いているのか、と聞かれて「お金を稼ぐため」と答える人は多いと思いますが、本作で熱い主張をぶつけ合う出版人たちのやり取りを見ていると、働くことの意味について改めて考えさせられます。

見どころその③ 主人公速水(はやみ)の人物の掘り下げがすごい

本作の主人公の速水は凄腕の編集長で、優れたコミュニケーション能力と世の中に雑誌や本を届けるという並外れた熱意をもって仕事にまい進します。

本作では速水がなぜ雑誌や本を世に出すことに並々ならぬ情熱を燃やすようになったのか、という経緯が、彼の幼少期から出版社に入社するまでの人生譚として描写されます。

大抵の物語の主人公は周りと比較して優れた能力や熱意を持っているものですが、一冊の小説という限られた尺の中で主人公の「人間性」についてここまで迫ろうとした作者の手腕に脱帽します。

本作はまさに主人公速水という一人の人間を描いた物語だったと言えます。

まとめ

本作は出版業界を志望する就活生の方にも是非お勧めしたいと思います。出版業界の現状が垣間見えると同時に、「編集者」という仕事の大変さを理解し、本当に人生を捧げる覚悟があるのかを自分自身に問い直すことができるでしょう。

また、既に社会に出て働ている方にとっては、自らの働く意味について改めて考え、今一度初心に帰り、仕事に熱意を灯すガソリン材にもなってくれるような物語です。

是非とも手に取ってみてください。

騙し絵の牙

騙し絵の牙